経済アナリストの森永康平さんが考える新しい金融教育のキーワードは"稼ぎ方の教育"!?

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(twitterからキャプチャ)

 

本日は経済アナリストの森永卓郎さんの長男であり、現在は株式会社マネネで金融教育事業を行なっている森永康平さんに、前半部では「事業をやるなかで発見した金融教育の本当の課題」、後半部では「明日からできるFMになるための勉強法などキャリア全般」についてをお伺いしました。

 

II 日本のリテラシーレベルはかなり低く、お金の貯め方や消費の仕方といったような、投資教育をする土台をつくるところから始めなければならない

 

ーー本日は貴重なお時間をとっていただきありがとうございます。今僕は資産運用業界にすごく興味があって現在色々調査を進めているところです。運用業界の成長の阻害要因として、日本のコーポレートガバナンスの問題、低金融リテラシーの問題、きちんと顧客のためになる運用商品が販売されていない問題などがあり、資産運用業界がアメリカに大きく遅れをとっているということがわかりました。

一一そこでさっそくなのですが、森永さんの出されている本や記事をいくつか読ませていただいたところ、世間では金融教育=投資教育と捉えられているが実際に必要なのは全般的な金融教育だということをおっしゃっていたと思います。具体的に全般的な金融教育とはどのようなものなのでしょうか?

 

 

 よろしくお願いします。そうですね、まず、今の日本で証券口座を保有している人が実はそんなに多くないという点が意外と知られていません。証券口座の開設数自体は数千万あると思いますが、基本的に個人投資家は1人1口座ではなく、複数の証券会社で口座を開設していることが一般的ですから、実際には日本人で投資をしている人はそれほど多くないと言えます。

 

 ご存知の通り、家計が保有する金融資産を見ても、現預金の比率が50%を超えている。そう考えると、ただでさえ投資をしていない日本人に対して、金融教育としていきなり投資を教えるというのはそもそもおかしいのでは?と思うようになりました。

 

 

 

(インタビューの後で実際に調べてみると、100万以上の証券口座数を保有する会社の証券口座の数を合計すると2,933万という結果になり、およそ3,000万口座日本には証券口座があるとわかりました。(2019年3月末)

また、2017年にみんなの株式によって行われたアンケート調査によると個人投資家の平均保有証券口座数は2.5口座とあるため、単純計算すると日本で証券投資をしている人は1,200万人で人口の10分の1にすぎないということがわかりました。

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(下記より引用:https://minkabu.jp/hikaku/

)

 

 

 

 しかし、金融教育を謳った多くのセミナーは証券会社や保険会社によって行われているため、どうしても証券口座開設や保険加入を目的としたポジショントークでの金融教育=投資教育といった面が強くなってしまってしまう。仮に金融機関側にそのつもりがなくても、受講者は疑ってしまう。

 

 そんななかで私は金融教育というのは、そういったお金の増やし方である資産運用に限らず、お金の貯め方・使い方・減らさない方法などの全般的な話がされるべきであると思っています。また、お金の歴史なども含めてお金の教育だと考えているので、そういったことを中心に金融教育事業をいましているということが簡単な説明となります。

 

 幅広い金融教育が必要だと思った理由はもう一つあります。日本の特殊詐欺の被害額は去年は363億円くらいだったのです。すごい額ですよね?これだけの被害額ですから、特殊詐欺のほとんどが手の込んだものであるならば、仕方ないのかなと思うのですが、実際の事例を見てみると、例えば「バナーをクリックしたら、200万円もらえます!!」など、そういうあり得ないものばかり。きちんとお金の基本的な知識があれば、ひっかかるはずもないのに、依然として、ここ数年間は毎年400億円近くの被害が出続けている現状があります。

 

 そういった人たちに対して、PERやPBRといった指標がどうだとか、長期の運用でのコツ、企業の財務分析手法を教えるのは明らかに時期尚早で、まずはそんなラクしてお金なんて稼げるわけないし、おかしいでしょ?といった本当に基礎の基礎みたいなものから積み上げて教えていかないと上手くいくわけがないと考えています。

 

 

II アフィリエイトnoteの販売も金融教育の一種でhow to get moneyの頭の使い方を教えていくことこそがこれからの新しい金融教育

 

ーーそうなんですね。財務分析とかそういったことを知る前にそもそものリテラシーのレベルとして「お金とは」のような基礎の基礎をわかっていない人が多くそれを伝えていく必要があると。そうなってくると、お金をどう稼ぐか、どう消費するかという話で言えば、少しキャリア教育に近いイメージなのかなと思ったのですが、そういった認識で大丈夫でしょうか?

 

 

 キャリア教育とは少し違うかもしれません。"どう稼ぐか"っていう頭の使い方は前述の通り教えていくべきです。例えば1990年代はインターネットもいまほど普及していなかったから、大学生がお金を稼ぐ方法といったらバイトをするしかなかった。

 でも今だったら、twitterでフォロワーを増やして、noteにノウハウを書いて稼いだりとか、アフィリエイトで稼いだりもできるし、そういう24時間しかない自分の1日のリソースをどう使うのか、バイトをやるのももちろんいいけれど、働いている間もネット上にコンテンツを置いておけば同時に稼げるかもしれない。そういったことを含めてどうやるの?っていう教育で"how to get money?"の話だから、キャリア教育とはまた別の話になると思います。

 

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(アフィリエイトの仕組み、株式会社バリューコマースHPより引用)

 

 お金へのかかわり方というのは増やす・減らさない・貯めるの3つだと思っていて、従来だと減らすのをやめるように詐欺にひっかからいようにしようだったり、貯めるために貯金しようだったり、増やすために投資しようだったけれど、今はもう一個、投資以外にそもそもどういった稼ぎ方があるのかということも含めてちゃんと教えていかなければいけないのではないか、と思っています。

 

 もちろん、いまの日本ではそのような教育は行われていません。いまの金融教育の担い手は金融機関に勤めている人だったり、FPさんばかりですが、そういう人たちはほとんどtwitterのアカウントも持ってない。持っていても匿名アカウントでしょう。そういう人たちがアフィリエイトとかを教えるのは難しくて、noteと言っても学習帳の方のノートになってしまう(笑)

 

 結局そういうことがわからない人たちが取る戦法は、自分の得意分野に持ち込むことなので、いまやっているような長期・分散・積立ということだけをひたすら教えることになっていく。もちろんそれは資産運用の王道で、間違いではないのですが、それだけじゃなくて、もっと幅広い金融教育をしていこうよ、というのが私のいまの思考です。

 

 

II 森永さんの現在のキャリアは家族ファーストの結果としてたどり着いたもの

 

ーー森永さんのおっしゃっている金融教育は新しい時代で生きていくためのリテラシーのようなものですね。その深掘りももう少ししたいのですが、少し話をずらして森永さんのキャリアのお話をお伺いしたいです。森永さんがそもそもこういった事業をやられている背景としてはどういったものがあるのかなというのをお伺いしたいです。

 

 

 おそらく佐藤さんが期待している答えとは逆のものとなる気がしますが、使命感や志が先行していまの事業をやっているというよりは、自分ができることを探した結果、いまの金融教育事業をやろうと決めたという流れです。

 

 もう少し詳しく説明をすると、去年の6月に起業する直前は、2年間台北を生活の拠点に、単身赴任をしながら海外事業をしていたのですが、3人目も生まれて、奥さんもそろそろ社会復帰したいということになったので、日本に戻ろうと決めました。しかし、サラリーマンとして日本に戻ると自由に時間を使えなくなるので、起業しようということで箱を作りました。それで自分はエンジニアでもなくてデザイナーでもないなかで何ができるかなというのを考えていたときに、自分の子どもには金融教育を早々にしたいなと思っていたことから、それなら自分の子どもだけではなく全国の子どもに金融教育をする会社にしようと。

 

 父親の影響もあって、小学校5年生くらいから経済学の勉強をしていたおかげで、大学生になった頃から、とても有利な状況になることが多かったんです。こんなに金融の知識があるのとないのとで生活の質が変わってくるのかと。

 

 さっきも話したように、日本人のほとんどはお金の知識がないから、ある意味では英語が喋れるのが同じで、お金の知識があることはこの国ではかなり有利になるのです。なので、自分の子ども達にも教えてあげようと思った時に、「いやちょっと待てよ」と、これ仕事になるんじゃないかと思ったのです。

 それで実際に初めてみたらありがたいことに色々な方から依頼を頂けて、全国各地でお金の授業を続けていった結果、色々な気付きがありました。金融教育って、大人向けとか子ども向けとか分ける必要はなくて、そもそもの基礎がみんなあまりないから大人も子どもも同じ教材でやるべきだなと気づきました。。

 

 

ーーなるほどそうなんですね。少し疑問に感じていることがあって、金融教育で凄い難しいなと思ったのが、投資教育だったら投資をしたお金が稼げる・英語勉強だったら就職、転職に結びつく・プログラミングもお金を稼げるといったように、それを学んだ時のネクストステップみたいなものが見えるからお金を払ってまでやろうと思うのですけれど、全般的な金融教育というとあまりすぐには結びつく気がしなくてどういうニーズの人が金融全般の教育を自分から能動的に受けに来ようと考えるのがいまいちイメージがわかないのですが。。。。。

 

 

 それは佐藤さんが賢くて、投資の勉強をしたらリターンを得られるといった話を一足飛びに発想できるからだと思いますよ。でも、世の中の人が皆そのような発想になるわけではないんです。そういう発想ができない人の方がマス層になっている。

 

 要はリターンが上がるから勉強しようとかではなくて、彼らが考えていることというは、例えばだけれど、一緒に会社で働いている人で自分よりも色々お金のこと知っている人がいてそういう身近な人をみて、自分もちょっと勉強したいなみたいなというシンプルな気持ちだけなのです。投資の勉強をして資産運用していこうというようなレベルの高い話っていうのはそもそも頭の中にはない人がほとんどです。

 

 なんとなくtwitterを見てたり、テレビを流していたら、老後2,000万円問題がやたらと報道されていて、なんとなく「やばい!」というような感情を抱くだけでソリューションが具体的に出てくるわけではない。なんとなくやばいなぁ、やばいけど、投資とかって損するかもしれないし、詐欺とかもあるからなんとなく不安。でも、とりあえずなんか知りたいなという人に対して金融教育をしていき、日本でもお金に対しての発想が豊富な人が増えるような世界を作り上げたいと思います。

 

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(老後2000万円問題、AbemaTimesより引用)

 

 

II 直接お客さんからお金を取るビジネスモデルではなくて現在金融を教えている人のリテラシーをあげることでも日本全体の金融リテラシー底上げになる

 

ーーなにか少し知りたいという人はお金を払ってくれないようなイメージをもっているのですが、マネタイズはできるのでしょうか?

 

 

 そういう意味でいうと、ビジネスモデル的にはお金の勉強をしてくれる人からは料金をとるケースは少なくて、主催者側の方から少しだけもらうというような形にしてい、ます。

 お金の勉強をなんとなくしたいなぁ、という程度のモチベーションの人に、お金を払って授業を聞きに来てくださいといっても、ほとんどの人は来ないのですが、無料だったら来てくれます。しかも私のように親子向けの授業をで無料で提供している人はそういないから競合もいません。

 

 

ーーそうなんですね。無料でやっていくのも大事だと思うのですが、最終的には英語やプログラミング教育の一貫みたいなところで多くの人に行き渡るようにするためには、やっぱり勉強する側からお金を払ってもらうモデルにしないと日本全体として底上げにならないし、事業としてもスケールしないのでは?と思ってしまいます。

一一でも現在そういうことにお金を払うという意味で存在している財布だと、将来に金銭的な意味で不安を感じているから婚活にお金を払っている女性層の財布と、子供をきちんと教育したいからプログラミングとか英語教育にお金を払っている子育て層の財布くらいしかないのではないかと思うのですが、どう行った方法だと他の財布からお金をとって教育をすることが可能だと考えていらっしゃるのでしょうか?

 

 

 実は私の会社は金融教育がキャッシュカウになっている訳ではありません。その他に行っている財務や経営のコンサルティングで会社を回しています。そうしている理由は佐藤さんがおっしゃってくれた通りで、金融教育事業でお金を稼いでいくことはすごく難しいです。

 

 もしこれで稼ごうと思うと1講座50万円!みたいなものをやらなければいけない。でも、それってどうなの?と私は思っていて、そもそもお金を学ぶのに50万円も払っている時点でリテラシー0ですよね。だから私はそこでお金をとろうというつもりはないんです。ただ、佐藤さんのいう通り、事業という観点で見ると、スケールはしません。そもそもスケールが一番の目的なら、この分野はやるべき分野ではないです(笑)

 

 

II 大学の諸問題を解決するエンダウメント投資をしたいなら、マルチアセットアロケーションが身につくところにいけ

 

ーー今僕が結局最後にやりたいのは、金融リテラシーをあげたいというのと、大学の資産運用にすごく興味があって、というのも僕が東大とか恐らく全部の大学に言える負として感じていることがやっぱり学校のお金の問題を感じるからです。

ーー僕は研究者とかも凄く興味があったのですけれど、日本は給与が低いからなるのをやめようと思ったし、僕の友人にも給与的な理由で研究者に興味があったけど結局就活は外資コンサルみたいな人も結構いる。

ーーあとは、学校の寮とかもつくれると思うんですよね。今の大学生の問題点として自分が感じてるのがやっぱり一人暮らしの家賃が高いこと。一人暮らししている学生の支出の半分くらいは家賃で、かといって実家でくらしてると通勤に1時間以上かけている人も多くて、自分もそれで平日とか休日に何か人と会えるイベントとかがあってもドアtoドアだと2時間かかるしなとかで躊躇していろんな機会を逃してしまったように感じた。そういうのを変えたくて。

 

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(一人暮らし大学生の支出内訳、進路ナビより引用)

 

 

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(大学生の通学時間、ベネッセ教育総合研究所より引用)

 

 

ーーでも大学はお金がないからできてないと思うんですよね。こういった問題を解決するにはどうすればいいでしょうか?

 

 

 米国の大学の運用は卒業生や関係者からの寄付が中心だから、寄付文化のない日本で如何にそれを集めるか、というソリューションがまず最初にきますよね。

 また、いきなりそういう大学基金の運用に関わりたいんです!といっても厳しいと思うので、ある程度の実績を積んでいかないといけないと思います。

 

僕のキャリアを振り返って思うのが、明確にこれをやりたいというのがあるのなら、それにいくためのショートカットを歩んだ方がいいと思う。運用会社にいってマルチアセットのアセットアロケーションを勉強して、成果を出したらGPIFとかそういった公の機関に移るというキャリアがいいんじゃないのでしょうか。

 

 

ーーありがとうございます。自分もそういったキャリアが最適化と思い、その方向で現在は進むつもりです。あと最後にお伺いしたいのが、株・債券だったりを自学して勉強していく上でこれがよかったなどのオススメのものはあったりしますでしょうか?

 

 

II 森永氏が考える債券と株の実践的な勉強法とその思考法

 

 既に株式の勉強は大学でしているようなので、債券についても学んだ方がいいと思います。債券はおそらく机上の勉強をいくら進めていても中々わかるようにはなれないと思います。外資系の運用会社で初めて債券運用の世界を見て、一番役立ったものはデュレーションと格付けを考えたポートフォリオ

 

 例えば、オーストラリアの債券ファンドと一概に行っても、単純に10年国債に全額突っ込んでいる訳ではない。運用レポートにはFMの意見も書いてあるので、はじめは全くわからないと思うけれど、ポートフォリオとマーケットの変化と併せて読み続けていると、だんだんと意味がわかるようになってくると思う。同じ座学でもただ本を読んでいるよりは、格段に役がたったと実感しています。

 

 株式は様々なスタイルが存在していますが、個人的にはテクニカルとファンダとマクロの全てを見るのが重要かと思っています。マクロはただ経済指標を分析するだけでなく、経済史や歴史を学んだり、中央銀行の動き方をモニタリングすることも含んでいます。 

 たとえば日経平均の動きを予想しましょうとなった時、いまはPBR1倍の水準が2万円前後なので、ファンダメンタル的にいうと2万円よりも下は資産価値を割っているので割安といえる。これが一つのファンダメンタルズ的な見方ですよね。2万より下だったら買いだし、2万4,5千円だと逆にPERが高すぎというような話になる。で次にテクニカル的な視点でみると、相場は2万300円の辺りに下値支持線がある。ファンダしか考えてないと2万円で割安だからということで2万円ジャストに指すけれど、2万円ジャストまではほとんど落ちてくることがないから全く買えない。だから、ファンダだけじゃなくてテクニカルも大事。

 

 そして、この後上がるの?下がるの?だったりその期間を考えるのが最後のマクロの話です。日本は消費税を上げたので、これからは消費も冷えるし、もしかするとデフレに逆戻りするかもしれない。でも国内がダメだからといってもすぐにじゃあ売りとなるのではなくて、海外の中央銀行はどんどん利下げをしているから世界的には再び過剰流動性相場になるから買いだとなる。 で、長期投資はどうかというと実はダメで、それは2年債・10年債で逆イールドが起きているから。今は上がり相場だけど、それは最後の上がり相場との見立てが強いともいえるかと思います。

 

 これはあくまで簡単な具体例ですが、こういう考えができるようになるのが大事だと思います。偉そうに言いましたが、これが必ず当たるわけでもないのが難しいところです。いろんな人に話を聞く中で何が大切なのかを考えて、それを実践していくのが大事だと思ういます。頑張ってください!

 

 

ーーありがとうございます。日々の24時間を有効に使って、より自分の知識を増やしながら進んでいこうと思います。ネクストステップで何をやるかも決まり、本日は大変役に立つお話をしていただきありがとうございました。

 

 

 

 

 

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今回森永さんには、金融教育と日本の大学の運用についてのお話を聞くことができました。 

 

大学の資産運用についてはまだまだわからないことがたくさんあり、具体的なマイルストーンも曖昧となっている状態なので、日本で実際にエンダウメント投資に力をいれようとしている早稲田大学慶應大学の担当者の方、またもしチャンスや需要があればクラウドファンディングで資金を集め、アメリカの大学の担当者や様々な機関に取材留学にいくことを検討しようと思います。